国立故宮博物院「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫」の利用体験談


 現在、国立故宮博物院図書文献館のHPでは、オンラインで利用できる目録や書目、さらには閲覧可能なデータベースがいくつか提供されている。そのうちの「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫」は、清代の研究において非常に有益な史料を、日本にいながらにして閲覧可能にしてくれる有り難いものである。
 当該「資料庫」の検索機能は無料で利用できるため、既に利用している人は少なくないようであるが、有料の閲覧機能を利用している人は、意外に少ないようである。まだ利用者が少ないので、誰かが使い始めるまで様子見をしている人が多いのかもしれない。それではあまりにももったいないので、私個人の利用体験談ではあるが、この場で公開して、さほどハードルの高いものではないということを紹介しようと思う。
 なお、以下の「1」の部分は余談に近いので、ストレートに利用方法の部分を読みたいと思う方は読み飛ばして、「2」から読み始められても問題はない。

1.2002年までの閲覧状況

 私が4年間の留学中に、主に中国第一歴史档案館で閲覧した史料は「軍機処録副奏摺」とタイトルがつけられた档案であった。ただ、この档案群は、「録副奏摺」とはいっても、「録副奏摺」のみで構成されているわけではない。中には「留中」とされて軍機処に留めおかれた奏摺のオリジナルや、軍機処と京師各衙門間でやりとりされた咨文も含まれている。つまり、「軍機処録副奏摺」は、その大半が「録副奏摺」で占められるものの、軍機処が管理していた档案の集合で、本来「軍機処档案」と呼ばれて然るべきものなのである。

 さてそれはさておき、この軍機処の档案も、国共後、大半が台湾へ持ち去られた。この台湾に持ち去られた部分は、国立故宮博物院の図書文献館で閲覧することができる。タイトルは第一档案館と違って「軍機處档摺件」とされている。

 現在ではオンラインで閲覧できる「軍機處档摺件」であるが、そもそもオンライン化される前、図書文献館に行って閲覧しなければならない時期においても、かなり使い勝手が良かった。今では役に立たない情報かもしれないが、余談として2001・2002年に訪問して閲覧したときの状況を記しておく。

 第一档案館の「軍機処録副奏摺」は、既にマイクロ化されたものを、マイクロリーダーを使って閲覧しなければならない。また、2000年前後は、閲覧室のマイクロリーダーの数も少なく、使用可能な機器をめぐって閲覧者が争奪戦を繰り広げるようなことも珍しくなかった。(近年はかなり改善されている。)また、档案も筆写が原則で、複写可能な枚数が相当に制限されているという状況は、当時から現在に至るまでさしたる変化はない。

 私が初めて故宮博物院に行ったときには、軍機處档摺件はマイクロ化されていなかった。閲覧室の档案目録で閲覧を希望する档案を調べ、申請用紙に档案の文獻編號を書いて閲覧申請をする方式だった。一度の申請で10件まで出してもらえることになっていた。そこで実際に出てくる档案は、オリジナルではなく、档案をゼロックスコピーしたものが出てきていた。つまり故宮博物院では、軍機處档摺件をマイクロ化することなく、事前にコピーしておき、コピーしたものを閲覧者に閲覧させるという方式をとっていたのである。たまに、事前にコピーを取っていないものもあったらしく、現物が閲覧室カウンターに出てきて、館員がその場でコピーを取り、そのコピーを私に渡してくれるというような場面もあった。

 非常にありがたかったのが、複写に関してほとんど制限がないということであった。出てきたコピーをそのまま複写依頼に出すと、非常に安い値段でコピーさせてくれた。何でも私が最初に行ったときは、このコピー代金が半額に値下げされた直後だったそうで、館員からは「おまえは運の良いヤツだ」と何度も言われた。

 ただ、全くの無制限であるかというとそうでもなく、「時間の制約」というものはどうしてもあった。一度に請求できる件数は10件で、書庫からコピーを探し出してくるのにえらく時間がかかり、午前に2回、午後に2回申請できれば良い方であった。つまり、一日ねばって40件ということである。館員と仲良くなって、上手く急かすことができるようになると午前に3回、午後に3回ということもできたが、そこまでスピードアップしてもらうには、なかなか苦労が必要であった。

 さて、少しずつオンライン化の方に話を近づけていこう。実は私が2001年に行ったときに、既にオンライン化の準備は始まっていた。必要な軍機處档摺件を探すために、閲覧室の前にある目録をくっていると、親切な館員が出てきて「既に電子情報化された目録ができつつあるから、そちらを使ってみてはどうか」と案内してくれた。その館員は、閲覧室のPCの電源を入れ、データベースの使い方を丁寧に教えてくれた。軍機處档摺件は元もと、基本的に古いものから新しいものへと、ジャンルなどを分類せずに通し番号(文獻編號)が付けられており、目録にもその通し番号が記されている。このデータベースでもその通し番号(文獻編號)が継承されている。ただし、その時にはまだ同治年間までのデータしか打ち込まれておらず、未完のデータベースであった。2002年に訪問したときも、光緒年間の途中までしか打ち込まれておらず、やはり未完であったが、目録をくるよりも遙かに速い作業ができた。また、この2回目の時には、档案そのもののスキャニングが始まっており、データベースに載せられているものの一部は、PC画面上で閲覧することも可能になっていた。

 当時はそのデータベースは、図書文献館の館内LANでしか共有されていなかったため、試しに館員に、これはいずれ外部から利用できるようになるのかと尋ねたところ、「よくわからない」という回答だった。しかしこれが、後に「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫」と題され、外部からの閲覧が可能になるデータベースであったのである。


2.オンライン検索・閲覧

 さて、前置きが長くなったが、「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫」の検索と閲覧方法を説明しよう。

 まずはブラウザで国立故宮博物院HPのトップページを表示しよう。
国立故宮博物院のHP
ここからデータベースのページに入っていくが、当該ページのURLはよく変更されるので、直接ブックマークをしていても、すぐに使えなくなったりするので注意しよう。ここではとりあえず、トップページから順序よく入っていこう。データベースを利用するには、まず「中文」ページから入らなければならない(他の言語のページではダメ)。その後、以下のようにリンクを辿っていって欲しい。
「トップページ」
   ↓
中文ページの入口
   ↓
「学習資源」
   ↓
「図書文献館」
   ↓
「館藏資料庫」

 「館藏資料庫」に辿り着くと、そこには国立故宮博物院図書文献館が提供している各種目録・書目のデータベースが並んでいる。「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫」もその中の一つとして並んでいる。まずは並んでいるデータベース項目の中から、以下の二つを探す。

「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件目録索引」
「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫(付費使用)」

前者は、档案そのものを閲覧する必要のない人向けの入口。こちらは検索のみしかできないので、無料で利用できる。もちろん档案そのものを見るためには、台北まで行かなければならない。以下で説明するのは、後者の有料の「資料庫」の方である。

 まず最初に、利用申請に必要になってくるものと利用条件についてまとめておこう。
利用にするのに必要なもの
PC  (…アタリマエカ)
FAX もしくは スキャナ
クレジットカード(今はこれが無くても精算できるようになった。詳しくは下記の説明を参照のこと。)
500台湾ドル(≒1700〜1800円) もしくは日本円で2,000円

利用のコースは、「団体年度会員」と「個人儲値カード」の2種類がある。前者は、日本円で年間200万円以上するので、個人で利用する際にはまず考慮の外に置いてよい。「個人儲値カード」の利用条件は以下のとおりである。
個人の利用に限定される。(他人との共用は、してはいけないということ。)
利用期間は一年間。
閲覧件数500まで。
印刷件数50まで。
利用料金は500台湾ドル

 さて、必要なツールと利用条件を確認したら、利用申請の手続きに入ろう。
「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫(付費使用)」と書かれたリンクをクリックすると、以下のようなページに辿り着くだろう。
01
上部に「資料庫簡介」・「資料庫使用説明」・「資料庫付費説明」の3つのリンクがある。「資料庫簡介」は、このデータベースの簡単な沿革を記しているだけである。「資料庫使用説明」は、利用手続きが終わった後、どのようにして档案を検索・閲覧したらいいのかを説明したマニュアルである。利用申請が終わった後に、ゆっくりお世話になるコンテンツである。急いで利用申請したい人は、3つ目の「資料庫付費説明」から入ろう。 02
ここに「団体年度会員」と「個人儲値カード」の利用条件が詳しく書いてある。そして利用申請する人は、表の右下にある「申購單」と書かれているところをクリックする。

 以下のような画面が出てくるので、必要な情報をテキストボックスの中に打ち込んでいく。とくに「必填」とされている部分は空欄にしておくと申請できない。 03
 中国語に堪能な方なら、あまり詳しい説明は必要ないとは思うが、各記入項目について、簡単に説明しておく。

「帳號」:これは利用者が希望するユーザーIDである。任意の文字列で構わない。ただし、アルファベットもしくは数字で8文字と決められている。「帳號1」と「帳號2」の記入が必要と記されているが、これは第一希望と第二希望という意味である。「帳號1」に記入した文字列が、既に他の利用者によってIDとして使用されていた場合、「帳號2」に記入したものを使わなければならなくなる。

「密碼」:これも利用者が任意に指定するパスワードである。アルファベットもしくは数字で12文字以内のパスワードを、自分で決めて打ち込む。

「團體名稱」:これは所属団体の名称である。所属する学校の名称を記入しておけばよい。

「聯絡人」:特別な理由がない限りは、利用者本人の名前を記入。

「E-mail」:データベース管理者の方から、最終的に決定したIDやパスワードは、ここで記入したE-mailアドレス宛に送られてくるので、間違いないように記入すること。

「聯絡地址」:これは特に正確に記入する必要はないが、領収書などの郵送が必要な場合は、ちゃんと記入しておかなければならない。

「聯絡電話」:利用に際して、データベース管理者の方から電話がかかってくることはないが、正確に記入しておいた方がいいだろう。

 以下、「必填」と書かれていない項目は、空欄で良い。
 必要事項を記入して、ページ一番下の確定ボタンを押すと、以下のような画面に進む。 04
ここには、利用料の入金方法が書かれている。現在は事情があって、銀行口座と郵便口座への振込の2種類の方法しか書かれていない。(以前はクレジットカードによる精算が出来たが、現在はシステムの改変のため、一時的に利用できなくなっているとのこと。)
 ちなみに、このデータベースは故宮博物院が直接運営しているわけではない。威華文化国際事業股分有限公司という会社が運営を請け負っている。利用料金もこの会社向けに支払うことになる。要はこの会社に利用料金を支払うことが出来れば、データベースを使わせてもらえるわけなので、まずはこの会社にメールを送る。アドレスは、上記画面に記されている。日本から台湾の銀行口座・郵便口座に直接振込を行うことが出来ないことを説明し、別の方法にしてくれないか、という趣旨のメールを送ろう。そうすると、この会社は日本の新生銀行にも口座を持っているので、そこへの振込方法を教えてくれる。この場合は、利用料は日本円で2000円となる。

 日本の新生銀行、もしくは他行から、指定された口座へ2,000円を振り込んだら、その振込証明(領収書)の写しを、FAXで威華文化国際事業股分有限公司宛てに送ろう。国際電話でFAXをするのが面倒な場合は、振込証明(領収書)をスキャナでスキャンし、その画像ファイルを添付ファイルで送っても良い。公司のFAX番号・メールアドレスともに上記画面に記されている。公司側がその振込証明(領収書)を受け取った時点で、こちら側にユーザーIDとパスワードを送ってもらえる(正確には、「群組」・「ID」・「Password」の3つが記されたメールが来る)。

 別に急ぎでない場合は、FAXやメールで振込証明(領収書)を送らなくてもいいのだが、その場合は公司が銀行に行って口座に振込があったことを確認してから、ようやくIDなどを送ってくることになる。これを待っていると、数日時間がかかる。

 ともかくIDとパスワードを手に入れたら、さっそく「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫(付費使用)」のトップページを表示しよう。(下図のページ)
01
今度はページ下部にあるリンクに注目。「進入資料庫」・「相関網站」というリンクがあるので、「進入資料庫」をクリックする。すると、以下のようなページが表示される。
05
 公司から送られてきたメールにある、「群組」・「ID」・「Password」を順に入力して、「確認」のボタンをクリックすれば、晴れてデータベースに入ることができる。

 ここで最初にデータベースを使う人は、ビューアーソフトのインストールをしなければいけないのでお忘れなく。意外にこのステップを無視して、閲覧できないと悩んでいる人が多いようなので注意。档案の画像データそのものは、ブラウザでそのまま見られるわけではなく、専用のビューアーソフトttsimgを使わなければならない。当然のことだが、通常のブラウザで閲覧できるようにしておくと、保存が出来てしまい、閲覧可能な500件が全て利用者のPCに保存できてしまうということになってしまう。そこで保存機能の無い、専用のビューアーでしかこのデータベースの画像データは閲覧できないようになっているわけである。ttsimgのダウンロードは、上記画面の一番下にリンクがはってあるので、そこをクリックして行う。「初次使用請安裝影像程式 (BIG5 Version) (GB Version)」と2つのリンクが存在することからもわかるとおり、ttsimgには繁体字バージョンと簡体字バージョンがある。どちらでも機能的には変わりないので、好みの方を選んでダウンロードしてインストールしよう。これでデータベースに入って、档案の画像データを閲覧できるようになる。档案の検索の仕方、もしくはttsimgについては、「清代宮中档奏摺及軍機處档摺件全文影像資料庫(付費使用)」のトップページの「資料庫使用説明」をクリックして、まずはそこの説明をよく読んで欲しい。複雑な操作はないので、下手にここで重ねて説明するより、正規の説明を読まれた方が誤解がないだろう。


3.閲覧できる档案と問題点

(未完)



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